REPORT 日本代表レポート
日本代表レポート:第20回7/6(金)
“ミッション・インポッシブル”は如何にして成し得たか 試合の終わらせ方に課題も苦い経験は未来への礎に
2010年の南アフリカ大会以来となるワールドカップ・ベスト16、しかも前回はパラグアイ相手に停滞感漂う内容だったが、今回はワールドクラスの選手がズラリと揃うベルギーに対して勝利の可能性を感じさせる奮闘ぶりだった。その戦いは世界中のサッカーレジェンドたちからも賞賛されるほど。大会前の日本代表を取り巻く状況を考えれば、まさに奇跡とも言える快進撃だった。
ワールドカップ本番まで2カ月前という時期に監督交代という大鉈を振るった日本代表。残された実戦の場はガーナ戦、スイス戦、パラグアイ戦のわずか3回だけ。その中で本番までに戦えるチームを新たに作り直さなければならないという、まさに“ミッション・インポッシブル”の状態だった。
そんな状況では「1次リーグ敗退」という予想が大半を占めるのも仕方がなく、まして相手はコロンビア、セネガル、ポーランドといういずれも評価の高い国々。まさに絶望的とも言える状況だった。
大きな転機となったのは、最後の調整試合となったパラグアイ戦だ。ここで解決したのが日本の二台看板である、香川真司と本田圭佑の処遇である。メンバー招集当初は本田と香川の共存、あるいは本田を軸としたチーム作りが進められるフシがあったが、パラグアイ戦で事態が変わった。
本田が先発し、香川がベンチスタートとなったガーナ戦、スイス戦はチームとしての機能性が低った。逆に香川がスタメンで、本田が控えとなったパラグアイ戦は躍動感のあるサッカーが展開され、それまでの閉塞感を打ち破る90分だった。これで香川スタメン、本田控えの構図が固まった。
またパラグアイ戦では、それ以外にも重要なトピックがあった。乾貴士と柴崎岳のスタメン起用である。乾は5月31日のメンバー発表当初は本人曰く「怪我の状態で足も曲がらない、膝も曲がらないという状態」だったが、そこからなんとか間に合わせ、本番では見事なパフォーマンスで2得点を決める活躍を見せた。また、柴崎は瞬く間に西野ジャパンの中核選手となり、彼のゲームメークなしに日本の攻撃は成り立たないというほどの存在となった。彼ら2人もパラグアイ戦がなければ、まったく異なる境遇になっていた可能性があった。
ベスト16進出という結果には、運が味方した点も少なくなかった。初戦のコロンビア戦では開始早々に相手選手の一発退場&PKゴールでリードという幸運に見舞われた。もちろん、一瞬の判断でルーズボールを相手DFラインの裏にダイレクトで蹴り込んだ香川の判断、それに反応して抜け出した大迫勇也のプレーは彼らの資質によるものだが、それでもあのような状況になることはそうそうないだろう。
また、終盤15分程度の「談合」で批判が出たポーランド戦も、試合前にはポーランドの敗退が決まっていたというラッキーな側面があった。実際、ポーランドはプレーに明らかに覇気がなく、エースのロベルト・レバンドフスキも吉田麻也が試合後に「完全にやる気がなかった」と語ったように、普段の彼ではまったくなかった。もし、ポーランドに勝ち上がりの可能性が残っていたら、少なくともプレーのインテンシティと迫力は別モノだったはずだ。
もちろん、運だけでここまでこれたわけではない。攻撃でも守備でもアグレッシブに前に出るというスタイルを、わずか2ヶ月程度の準備期間で、強豪相手にある程度表現できるところまで持っていけていた。「普通に考えて2か月前に監督が解任になる、ましてや僕らみたいに弱いチームが今まで築き上げていたものがゼロになる、その中でチームがひとつになるというのは本当に難しいこと」とは香川の弁だが、相手に脅威を与えられる戦い方を短期間で整理できたのは驚異的と言っていいだろう。
最後の試合となったベルギー戦でも、西野監督が求めた日本らしいサッカーであと一歩のところまで相手を追いつめた。誰もがサボらずにチームのために走るハードワーク、アジリティの高さを生かしたコンビネーション、リスクをかけて両サイドバックやボランチが高い位置に顔を出す仕掛けで奮闘した。その中で2点を先行し、勝利に大きく近づいたはずだった。
しかし、ベスト8の壁はそう簡単に超えさせてくれるものではなかった。チーム全員が力を出し尽くした結果として2点のリードを奪ったが、そこから追いつかれ、さらに逆転を許したところに、世界トップクラスとの明確な実力差を認めざるを得なかった。
ギアを入れ直し、長身のマルアン・フェライニを投入するなどして、フィジカルと高さの強みを全面に押し出すなりふり構わぬ力技に対し、日本にはそれを押し返すだけの底力はなかった。後半アディショナルタイムには、日本のCKからのカウンターでワールドクラスの精度を見せつけられた。チャンスと見た時の個々人の集中力、技術の高さ、共通イメージ、それが融合した完璧なカウンターの前に日本は屈した。
2-0でリードしながらの逆転負け。日本では「2-0は危険」という格言のようなものが広く認知されている。1点を奪われるとリードしていた側の心理的プレッシャーが強くなり、平常心を失ったり、受け身になることで試合をひっくり返されることがしばしばあることから、そう言われる。
だが、トップレベルのチームには、そんな脇の甘さなど見せない強さが当然のようにある。2-0はあくまでも2点リードであり、その優位な状況を徹底的に利用する。点を返そうと躍起になって前がかりになる相手の隙を的確に狙い、カウンターでトドメを刺す。一方、日本では、なぜかリードしている側がつけ入る隙をみすみす相手に与える試合運びの拙さが代表レベルでもクラブレベルでも目立つ。
ベルギー戦もそうだった。2点リードしているのにボールより前に多くの人数を割き、後方が数的同数になるリスクを負う。リスクをかけた仕掛けは日本の長所でもあったが、試合状況に応じて変化させる「ゲームコントロール」の術は持ち合わせていなかった。セットプレーの時も点差に関係なく、不用意に枚数を使う。そういったリスクマネジメンや試合運びのディテールで日本はまだまだ学ぶべきところがあった。世界のトップクラスで戦い続けてきた香川は言う。
「2-0になったときに、ゲームのリズムであったり、読み取る力であったり、そういうところの経験はやっぱり本当に厳しいところでやらないと分からないところがありますし、2点差というのは確実に海外であったらゲームを終わらせられる状況だったので、そういうところはまだまだ僕たちの経験が足りなかった」
その授業料は高くついた。日本は今回で3度目となるベスト16に挑んだが、今回もその壁を越えることはできなかった。だが、痛みがあってこそ人は大きく成長できる。サッカーシーンのトップを走る強豪国であっても、辛酸を嘗めてきた過去はいくらでもある。苦い経験は必ず未来の礎となる。
text by 神谷正明
STANDINGS順位表
RANKING得点ランキング
順位 | 選手 | 得点 | ||
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1 | キリアン エムバペ | 8 | ||
2 | リオネル メッシ | 7 | ||
3 | オリヴィエ ジルー | 4 | ||
3 | フリアン アルバレス | 4 | ||
5 | コーディ ガクポ | 3 | ||
5 | ブカヨ サカ | 3 | ||
5 | リシャルリソン | 3 | ||
5 | ゴンサロ ラモス | 3 | ||
5 | アルバロ モラタ | 3 | ||
5 | マーカス ラッシュフォード | 3 | ||
5 | エネル バレンシア | 3 |