REPORT 日本代表レポート
日本代表レポート:第9回6/13(水)
香川と乾のコンビでパラグアイとの乱戦に勝利!メンバーを入れ替えたことで生まれたコロンビア戦の勝算とは
この先には何か、面白いことが起こるのではないか。
そう感じさせたのが、6月12日のパラグアイ戦だった。日本代表は6月8日のスイス戦からスタメンを10人入れ替えて臨んだからだ。西野朗監督が以前からほのめかしていた通りのメンバー変更だった。そんな試合で日本は、4-2で現体制になってからはじめてのゴールだけでなく、白星も手にした。
そもそも、代表監督がチーム作りをする上での戦略は、大きく分けて2つある。
1つが、スタメンを固定せずに常に競争意識を持たせるやり方。代表チームは限られた時間しか一緒にトレーニングを積むことが出来ず、クラブチームのような緻密なコンビネーションを構築しづらい。だからこそ、そのときどきによって調子の良い選手を起用しながら、チームを強化していくというものだ。
ただ、メンバーが頻繁に替わる分だけ、チームの軸となる戦い方の構築は難しくなる。そして、思うような結果が得られない試合が続くと、チームが立ち返るところがないために、選手たちから自信が失われてしまう。
もう1つが、スタメンをある程度固定させていくやり方だ。代表の活動期間が短いからこそ、チームに戦い方のベースを植え付ける。このやり方ではベースを固めたうえで、新たなメンバーをあてはめていく。
もっとも、このやり方では、チームの戦術や細かいルールが固まっていくがゆえに、活きの良い若手が出てきたとしても、そうしたルールを覚えたり、表現することに意識がむいてしまい、所属クラブで見せているその選手の良さが見られないままで終わってしまうことも少なくない。
前日本代表監督のヴァイド・ハリルホジッチ監督は、前者の方針をかかげていた。一方、2014年のブラジルW杯で日本を指揮したアルベルト・ザッケローニ氏は、後者を選択していた。
どちらにも、一長一短がある。
では、西野監督の場合はどうなのか。彼が監督に就任した時点で、本大会までにわずか3試合のテストマッチしかなかった。当然ながら、メンバーやフォーメーションも固定しながら3試合を戦うと思われていたが、彼が選択したのは前者の戦い方だった。スイス戦とパラグアイ戦のスタメンが10人替わったというのは、その象徴だ。
そこにはどんな意図があったのだろうか。
パラグアイ戦ではベンチで90分間を過ごしたキャプテンの長谷部誠は、西野監督の戦略についてこう話した。
「誰が出てもそういう風な意識をもって戦うことが出来たというのはすごく良かったです。今日のスタートの11人で試合に出るのは初めてだったと思うんですけど、そのコミュニケーションはすごくとれていたなと思いますから」
西野監督の意図をしっかりと感じ取っていた選手がいる。スイス戦では出番がなく、パラグアイ戦で先発した岡崎慎司だ。
「自分の今までやってきたことの全てをだして、W杯のコロンビア戦のヒントになるようなプレーがいくつか出れば、それはまずチームのためになると思う」
W杯までの3つのテストマッチで、本大会に向けて細かい連携を深める重要性を理解しながらも、西野はその点に目をつぶった。その代わり、23人のW杯登録メンバーの全員が当事者としての意識を持ち、団結することを優先したのだ。
実際、オーストリアキャンプの午前中に行なわれることが日課になっているミーティングでも、そうした方針は貫かれているという。
例えば、ミーティングで一つのテーマ――例えば相手の攻撃に対してどのようにプレスをかけにいくのか――を選手たちに質問として投げかけるとき、西野は、様々な選手に考え、発言ささせる機会を与えているという。
もしもメンバーを固定していたら、そうした場では“主力”と呼ばれる選手の意見ばかりが出てくるし、スタメンに入らない選手たちの当事者意識はどうしても下がってしまう。
試合のなかでチームとしての戦い方を整えていくのではなく、チーム全体で意見を出し合いながら選手たちに考えさせる。それが現指揮官のとった方策だった。
そして、スイス戦で見られた課題が、パラグアイ戦では少し改善された。
その最たるものが、どのようにして相手にプレッシャーをかけ、ボールを奪うのかについての方法論だ。
スイス戦では攻撃的なポジションの選手と守備的なポジションの選手との間に、あるいはスタメンの選手と途中交代で入った選手との間に、ズレが生じていた。しかし、それがパラグアイ戦では大きく改善されていた。
確かに、パラグアイはW杯の出場権も逃しており、スイスなどと比べれば、チームの完成度も選手のモチベーションも明らかに低かった。そこは差し引いて考えなければいけない。
しかし、わずかでも確実に前に進んだのは確かだ。それは各選手が、自分が出ていない試合(今回の場合はパラグアイ戦のスタメンの選手がスイス戦)から学び、改善する方法を考えてきた成果だろう。
時間がないからメンバーを固定するのではなく、時間がないから全員で議論することで前進する。その方法論は間違い、と言い切れるものではないのだ。
そんな西野の方針に目を向けた時、興味深いのはパラグアイ戦のあとに彼が残したコメントである。
「パラグアイはリードされるとパワープレーを仕掛けてくるスタイルがあるので、それで(パラグアイ)ベンチを見ていたんですけれど、(パワープレーの際に起用される選手が)入ってこなかったのでそのままにしましたが、(パワープレーを仕かけてきた場合には)最終ラインに(日本の選手を)1枚入れることも考えました」
指揮官は、練習試合の相手に対してもしっかりとスカウティングをして、試合に臨んでいた。
よく考えてみて欲しい。
日本がロシアW杯初戦であいまみえるコロンビア代表の関係者も、パラグアイ戦を視察に来ていた。彼らはきっと迷うはずだ。W杯の初戦に日本代表は、スイス戦のメンバーで来るのか、あるいは西野体制の下で初めて勝利をつかんだパラグアイ戦のメンバー中心で来るのか。そもそも、対戦相手からしたら、西野監督が就任してからのサンプルはわずかに3試合。にもかかわらず、5月30日のガーナ戦では、6月の2試合とは異なり3バックを採用している。
コロンビアと日本が10回戦ったとして、冷静に考えれば日本が勝ち点を挙げられるのは、よくて2回程度だろう。ただ、コロンビアが日本の出方に対しての対策を十分に練れないとすれば、その確率はわずかかもしれないが、上がるのではないだろうか。
思い出されるのは、4年前のブラジルW杯で対戦したコートジボワールのことだ。コートジボワールの関係者は、日本代表が勝負をかけようとしたときには後半から遠藤保仁が出てくるだろうということまで、明確に予想していたという。
それはザッケローニ監督がスタメンを固定して、「自分たちのサッカー」を貫くタイプだったから。そして、W杯前年の欧州遠征や、ブラジルW杯直前のアメリカ合宿でも、遠藤を試合途中から投入することで、相手を追い上げたり、勝ちこしたりする試合があったからだ。
西野監督がパラグアイ戦でメンバーを大幅に入れ替えたのは、あくまでも全ての選手に当事者意識を持たせ、コンディションを調整させることが第一の目的だったはずだ。
ただ、その方針をとった結果、初戦で日本と対戦するコロンビア代表の分析チームを悩ませるというメリットも生まれた。
日本は監督が4月に代わったということを考えても、選手構成を考えても、ロシアW杯のH組の中ではアウトサイダーだ。しかし、アウトサイダーだからこそ、王道ではない道を進むことは、決して間違っていない。
日本の実力は変わらない。それでも、実力通りではない結果をたぐりよせるための、光明はわずかながらも確実に生まれつつある。
text by ミムラユウスケ
STANDINGS順位表
RANKING得点ランキング
順位 | 選手 | 得点 | ||
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1 | キリアン エムバペ | 8 | ||
2 | リオネル メッシ | 7 | ||
3 | オリヴィエ ジルー | 4 | ||
3 | フリアン アルバレス | 4 | ||
5 | コーディ ガクポ | 3 | ||
5 | ブカヨ サカ | 3 | ||
5 | リシャルリソン | 3 | ||
5 | ゴンサロ ラモス | 3 | ||
5 | アルバロ モラタ | 3 | ||
5 | マーカス ラッシュフォード | 3 | ||
5 | エネル バレンシア | 3 |